下町ロケットの特許係争シーンで嫌な過去を思い出す

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裁判イメージ

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下町ロケットのリアルを知る

ドラマで大ヒットした「下町ロケット」
私はドラマ化前に小説を読んでいましたので、ドラマ自体はあまり見ていません。
どうも小説で自分なりのイメージが膨らんでいるのでドラマになると違和感を感じてしまうためです。
それはともかく、小説でもドラマでも取り上げられていたのが特許係争のお話。
かなりエグい事をされていると感じた方も多かったのではないでしょうか。
また、こんなのは小説やドラマの中の話で自分は関係ないとか。。。

この話を読んでいると似たような事を経験したことがよみがえりました。
その当時の苦しかった思い出を書きたいと思います。

新品種開発で悪戦苦闘

もう随分前の話です。
当時、私はある製品の開発を担当していました。
その製品は過去に製造していたものの当時は価格が高かったこともあり普及せず、一度製造から撤退していたものでした。

ですが、時代の変化(省エネ)とコスト面のバランスが取れてきたこともあり、他社で販売されている製品の売上が伸びてきている状態でした。
これをみて営業部隊から強く製品化の要望があり、再度開発に乗りだすことになりました。
しかし、撤退から10年以上たっています。当時この製品を開発した経験者はほとんどいません。手探りでの開発を進めることとなりました。

何しろ、製品の評価の項目すらわかりません。実際の使用環境を想定して、いちから評価方法を考え、試作を繰り返す日々を送っていました。
そのかいもあり試行錯誤の結果、なんとか製品化の目処がつきました。
試作品の評判も上々です。早々に発売が決定しました。
発売に先立ち開発部隊としては着々と量産の準備を進めるかたわら、重要な確認を行わなければなりませんでした。
それは・・・特許調査です。

特許調査で疲労困憊

新製品と言っても既に先行他社がある製品です。
今後市場の拡大が見込める製品でしたので他社も相当力を入れています。当然構造設計などで特許がたくさん出願され、既に権利化されたものもあります。
私の会社は後発になりますので、新品種が特許に抵触していないか確認しなければなりません。いろいろと調査の日々です。

すると、ある同業他社の特許に非常に似ているものが見つかりました。
その特許を調べていると、開発した製品は抵触している可能性が高そうです。
このまま、発売すると特許に抵触していると訴えられる可能性もあります。
そこで、色々と回避できないかさらに調査を進めました。

発売日が迫っていますので時間との戦いです。当然先行他社のほうがノウハウも多く持ているため後発の私達がその特許を覆すのは容易ではありません。
諦めかけていたその時、私の会社で過去に製品化していた時に出願していた特許の資料を見つけました。

この特許は権利化はされていませんでしたが、出願はしているため公的な文書として公開されています。これが他社の特許より随分前に公開されていました。
その特許の資料を持って特許事務所に相談しました。
その結果。。。
「他社の権利は侵害していないと判断できる。」
との結果でした。
当時の結果としてはベストです。これで最大の懸案事項は解決し、無事発売にこぎつけることが出来ました。

まさかの特許侵害警告

そうして数年が経過しました。
開発した製品は順調に売上を伸ばしています。ラインアップも拡充し、かなり業績に貢献するようになりました。
そうした頃、同業他社より私の会社の知的財産部門に通知が届きました。
「特許侵害の警告」です。
開発時に問題となっていた特許を根拠に警告をしてきました。

ですが、これについては自社の過去に出している特許を根拠に回避できると安易に考えていました。
ところが、ここでどんでん返しです。
当時相談していた特許事務所からまさかの連絡が来ました。
「該当の特許は回避できません。」・・・まさか!

詳しく話を伺うと当時とは状況が変わっていたようです。
「優先権主張出願」です。
相手の会社は元となった特許に追加で新たな内容を加えて特許の範囲を修正していました。この内容が私達の開発した製品を狙い撃ちしたかのような内容です。
この修正された特許では、裁判で争っても負ける可能性が高い。訴えられる前に警告してきた会社と交渉し和解したほうが良いとの結論でした。

色々と社内で協議を重ねましたが、結局ほかの回避策はありませんでした。
残る手段は、相手の会社と折衝し特許の使用許諾をもらうしかありません。
使用許諾をもらうということは相手先に特許料を支払うということです。通常製品単価の1~3%が相場です。この支払に関してはもう諦めるしかありません。

ただし仮にこの費用を支払ったとしても利益は確保できるようにしてありました。打撃ではありますが致命傷ではありません。
ということで、専門の部署に交渉を委ねることとなりました。

特許の使用許諾を拒否される

ところが、相手方の態度は強硬でした。
出てきた回答は「特許の使用は許諾しません」でした。
若干の猶予期間はあるものの「製造を差し止めろ」という要求です。
もちろんこれまでに販売した製品の特許料は支払わなければなりません。

これには社内でも驚きが広がりました。通常私達の業界ではここまで強硬な態度に出ることはありません。市場では競合するものの、自社で製造出来ない製品はOEM供給という形で相互に補完しあっています。協力関係にもあるわけです

今回の対応はその関係を悪化させるほどの内容でした。
まあ、それだけ私達の製品が目障りだったのかもしれません。
数回の交渉を続けましたが、先方は全く相手にしてくれません。
完全な敗北です。そうしてその製品は製造中止となってしまいました。

これは物語ではなく私が経験した現実の話です。
私の長い経歴でもこのような経験はこの1回だけです。
この時は、精神的に相当なダメージを喰らいました。特許なので相手側から見れば正当な権利の行使ではありましたが、とにかくやり方がいやらしい。(と当時思っていました)
今でもその会社の製品は一切買おうとは思いません。

当時は必死で何も考える余裕はありませんでしたが、「下町ロケット」のドラマを見ているとその時の光景がまざまざと思い出されます。

「下町ロケット」。。。現実に結構忠実です。

追記)この話はその後どうなったのか気になる方に追記です。
猶予期間に何とか代替案を考え、製造中止までに新構造での製品化を間に合わせることが出来ました。ですので仕事量は一時的に増えて大変でしたが業績への影響は限定的で済ませることが出来ました。今思えば運が良かったなと。。。
今は、早期退職して関係はなくなってしまいましたが今でもその製品が販売されているのを見て少しは救われる思いです。

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