私が以前勤めていた会社では人事制度として「目標管理制度」が設けられていました。
この制度では社員が個別に業務目標を設定し、その達成度で人事評価がされるというものでした。
当時年功序列の人事制度では限界があるということで海外にならって各社が続々と導入していたこの制度を私の会社でも導入することになったということです。
この一見社員のモチベーションを上げられそうな制度ですが、慣れない日本企業が導入するといろんなところできしみが発生して困ったことになってしまいます。
目標の設定で困る
成果で評価を行おうとするとどの程度達成できたかを視覚化する必要が出てきます。
営業などは売り上げなど数字で表すことができるので判りやすいのですが、スタッフ部門など数値化できない部門でも目標の数値化を上司から求められることが多かったようです。
上司が数値化しないと評価できないというのが問題ではあるのですがとにかく評価できるような目標を設定しろという本末転倒な事態になってしまいました。
そのような要求にこたえるために苦労している社員は結構いたと思います。
目標達成しか眼中になし
こうして苦労して設定した目標ですが、設定したからにはその目標の達成具合で上司から評価されるということになります。
しかし会社という組織で仕事をしていると、雑用とは言いませんが自分の本来の業務ではない仕事も飛び込んでくることがあります。
特に顧客から今まで要求されなかったので誰が作成担当なのか判らない資料の要求など。
これらの仕事は結構面倒なのでそれまでも断る人は断っていたと思うのですが、そこに「自分の目標管理の範囲ではない」という大義名分(本人はそう思っている)が加わります。
ですので、今まで以上に強く拒否されて依頼したほうは途方に暮れるという事態が頻繁に起こるようになります。
お客様に「目標管理制度を導入しているので出せません」などと言えませんし担当者は本当に困ったと思います。
結局、どうなるかというとそんな仕事をやってくれる人、お願いすれば断れない人に頼んでくることになります。
目標管理制度のはざまで割を食う人たち
さて、目標管理制度が導入された職場で自分の実績にならない仕事をしてくれる人はいるのでしょうか。
世の中うまい具合に出来ています。
困っているのなら力になろう。
目標管理を盾に仕事を断った側からするとお人好しと言われるような人たちが大抵どこの部署にも一人くらいいます。
そのような人たちが、ある程度通常業務を犠牲にしつつ対応してくれたりします。
また、そのように多種多様なお願いを受けて色んな業務に対応するので必然的にその人にしかできない仕事というものが増えていきます。
そうなると頼む方からすると頼もしいということで、何か判らないことがあれば「あの人」に聞こう、そして対応をお願いしようとなります。
誠実な社員が割を食う
こうして、意図せずに幅広い知識を得ることができた「お人好し」な社員。
しかし残念なことに最終的な人事考課ではそれが特別に評価されることはありません。
すでに目標管理という人事評価制度が導入されていますので自分が目標に挙げた業務をどのくらい達成したのか?で評価されてしまうからです。
他の仕事を断って自分の業務のみをしている社員ともちろん自分の業務もしているものの、ある程度担当外(に見える)仕事にも時間を割いている社員。
目標達成に関しては当然他の仕事を断る人の方が達成しやすく、うまくすれば超過達成の可能性も高くなります。
そうなると最高評価を獲得することも可能です。
(余談ですがそういった人は、目標を達成できなかった際の理由つけも上手です。その時は自分が悪いのではなく外部要因でできなかったので不可抗力だと声高に叫びます)
自分の業務以外にも仕事を引き受ける「お人好しは」目標管理では不利です。
よっぽど優秀でなければ目標をギリギリ達成できて精いっぱい。超過達成はかなり難しいでしょう。
人事評価の不平等
こうして、人事評価として成果主義を導入すると評価に不平等が出てきてしまいます。
いわゆる要領が良い人だけが評価が高くなり出世しているという理不尽な状況です。
元々成果主義が浸透している海外ならそういった歪をうまく修正できるシステムがあるのかもしれませんが、うわべだけ導入してしまった会社ではうまくいきません。
こうして気づくと出世している幹部社員の多くが割り切って仕事をしていた人たちになります。
こういった人たち中心で会社が回るのか?
結果的に私が勤めていた会社ではうまく回らないようでした。
自分の仕事しかせずに管理職になった人たちは、どうも視野が狭いままのようです。
自分の仕事をこなすだけならそれでも良いのでしょうが、管理職の業務はマネージメント、広い視野が求められます。
時には部門の枠を超えて折衝するなど調整力を求められますが、もともと自分の目標以外の業務は断るという考え方ですので、どうもうまくいかないようです。
結局、部署間の調整がうまくいかずにここの部門が孤立して運営されるという会社組織が機能不全を起こしてしまいました。
危機感が共有されないと会社はどんどん悪くなってしまい歯止めがきかなくなります。
結局私が勤めていた会社は、業績が悪くなっても部門間での危機感の共有もなく結局リストラを実施し目標管理での成果の評価など関係なしに従業員を減らすという結末になってしまいました。
個人的には日本の企業では目標管理というのはうまく扱えず、デメリットばかりが目立ってしまうように思います。
いま、私が勤めている会社ではこのようなことにならないよう、経営側へも働きかけていこうと思っています。
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